2007年に葉山で始めたお店の物件は住居付店舗で、住居部分はとても広かったのですが店舗部分は狭く、その狭い店内の片隅で珈琲を淹れたりしていました。
客席の中に私もいる、というような距離感だったので、静かな良い時間が流れている時には(私の気配が邪魔だな・・)とずっと気になっていて、次にもし別の場所でお店をやるなら改善したいなぁとぼんやり思い描いていました。
桐生の今の物件を見つけた時、別の物件もきっと気に入りそうだからと紹介していただいた所があり、そちらもとても素敵でしたが、“客席から私の姿がなるべく見えないようにできる“というイメージに近かったことが今の物件に決めた一番の理由です。
葉山のお店は道路からスロープを下った場所にあり、お店を知っている人しか来られない分かりづらい立地だったので、来てくださる方の姿が窓越しに見えるのがいつもとても嬉しい瞬間でした。
窓際で紅茶をポットで飲むのがお好きだった方、ご夫婦で本を読みに来てくださる方々、チャイとスコーンが大好きな小さな女の子、いつもご家族でハニートーストを食べに来てくれた皆さん、編み物をする人、絵を描く人、このお店に来るためにバスに乗ってわざわざ来てくださった、私にとってはたくさんのお客様。
当時はスマホもSNSも生活の中心になかったからか、思い思いの時間をカフェで過ごすということが、今よりもっと自然なことだったように感じます。
葉山のお店を閉めるときにいただいたお手紙で、“オーダーしたものを作ってくれている音を聞きながら待っている時間がとても好きでした“と書いて下さった方がいて、ずっと私の気配が邪魔だろうと思いながらお店に立っていたけれど、私の想像していなかった時間があったことを知って、あの静かな良い時間の中に私の居場所もあったのだなぁと胸がいっぱいになりました。
それでもやはり気配は消したいというか、ものすごく大好きな遠くにある小さなカフェの、確かに注文もお会計もしたし、サンドイッチを作ってもらっている音もその美味しさも、これもあれも食べてみたかったなぁと思う他のメニューも、他のお客さんの素敵な佇まいも、過ごした時間の全てを覚えているのだけど、なぜか店主さんの気配だけを思い出せないあのお店のようでありたいと思い続ける日々です。
2023年も変わらず静かに皆様のお越しをお待ちしております。