鎌倉に引っ越した後、観光客で賑わう大通りを避けてよく通るようになった裏道に、とても小さな可愛らしい喫茶店を見つけました。
どう考えても昔からある、きっとご高齢の方が店主であろう雰囲気で、お店のドアにかかっている札はいつもCLOSED、いつ通りかかっても開いていない。
閉店した様子はないし、かなり限られた日時で営業されているのだろうと想像しながら、その斜め向かいにあるパン屋さんでパンを買う週末のルーティン。
ある時いつものように通りかかったら店内の電気がついていたので、(開いてる!?)と意を決して入ってみたら、少し不思議そうな顔でご高齢の店主さんが迎えてくれました。
カウンターだけの小さな店内、手書きされたシンプルなメニュー、“レトロ風“ではなく完全にレトロな大きい冷蔵庫が2台、必要な分だけ丁寧に作られているであろう手作りのケーキ、ジュースは「オレンヂ」で、想像通り何もかも大好き!と心の中で叫びました。
明らかに異質なお客であろう私たちに、あれこれ尋ねることもなく店主の方は淡々とされていて、いいなぁいいなぁ、ケーキも本当に美味しいなぁと思いながら過ごすうちに、常連さんと思しきおばあちゃんたちが続々と入って来られたけれど、変わらず静かに迎える姿がとても素敵でした。
結局その一回しかタイミングは合わず、今はもうお店もなくなってしまいましたが、あんな風に歳をとって、あんな風に小さなお店をやりたい、憧れの喫茶店。
東京に住んでいた頃、家のすぐ近くに、おじいちゃんが一人でやっている、店内に2人で入ったらぎゅうぎゅうの、小さな小さなケーキ屋さんがあって、(一人であんなにたくさん作れるものだろうか)と思うくらい、いつもたくさんの種類のケーキが並んでいました。
自由が丘の近くだったので、当時からすでに辻口さんの『モンサンクレール』を始め有名店はたくさんあったけれど、ケーキ買おうか、となったら、いつもおじいちゃんのお店へ。ご高齢だったので仕方ないけれど閉店してしまった時は本当に寂しかった。
身内でもないのに勝手に「おじいちゃんのケーキ」と呼んでいたので、当時も今も店名が分からない。そして多分、多くの人がそうだったのではないかという気がする。