紫陽花の秘密

漠然とお店をやりたいと思っていた頃、もともと好きでよく行っていたことと、“和菓子と珈琲“ の組み合わせがすんなりと受け入れられそうなイメージもあって、鎌倉で物件を探していました。

休日の度に東京から物件を探すために来るくらいなら、引っ越しちゃえば?と仲良くさせていただいていたお店の方から言われて、それもそうだなぁ、と鎌倉に引っ越してからは、いろんな不動産屋さんを当たってみたけれど、話を聞いてくれるところもあれば、一瞥して “どう考えてもお金のなさそうな小娘が来た“ と全く相手にしてもらえないところも多くあって、(まぁ分かってはいたけど入ってみました)という感じで当たっては砕ける。

ある時、北鎌倉のとある物件が気になっていて、近くにあった小さな不動産屋さんに入ってみたところ、やはり一瞥して「鎌倉でお店なんて無理無理!」と瞬殺で追い返されそうになったので、ですよね…と引き下がろうとしたら、たまたま居合わせたご近所のおじいちゃんが、「そんな冷たくあしらったら可哀想じゃないのぉ。力になってあげなよぉ。ほら、あそこのあの物件とかは?空いてるんじゃないの?」と助け舟を出してくれました。

まぁまぁ座りなよ、とおじいちゃんに勧められてとりあえず座ったものの、不動産屋のおじさんはダメダメの一辺倒でまったく相手にしてくれず、「困ったねぇ大変だねぇ」と言いながら、「北鎌倉に紫陽花を植え出したのは僕なんだよ」とおじいちゃんが誇らしげに教えてくれました。

昔は北鎌倉の駅で観光客が降りることもなく閑散としていて、寂しい雰囲気だった。歩きながら楽しんでもらえるようにと、道端に紫陽花を植え始めてみたけど、周りの人から「そんなことしても誰も来ないし無駄だ」とずっと言われてきた。でも今はみんな北鎌倉で降りて、紫陽花の季節にはたくさんの人が楽しみに見に来るでしょう?!あれはねぇ僕が始めたんだよ!

多分、がんばれ、ということなのだろうなと少しだけ温かい気持ちで帰路についた思い出。

紫陽花の季節は、北鎌倉から鎌倉へ抜ける『亀ヶ谷坂切通し』が穴場で、とても好きでした。