スキップしない時間

この1ヶ月ほどは久しぶりにお立ち寄りいただく方が多く、開店当初通ってくださっていた方に過ごしていただく時間も懐かしく嬉しいひとときでした。

この頃よく、ドラマや映画を倍速で観るとか、音楽のギターソロをスキップするとか、娯楽に時短を求める風潮が話題になりますが、カフェという空間でもだいぶ前からそういう風潮はあって、ある特定の娯楽や業界に限った話ではありません。

私はカフェ(や飲食店)に行ったらそのお店のメニューを見るのが大好きで、あれもこれもいいなとずっと見ていたいような人間なのですが、桐生でお店を始めた当初、「たくさんのメニューからいちいち選ぶのは面倒」派の人が多いということを感じていました。

その頃はすべて単品のメニュー表記だったので、「何かセットメニューとかないんですか?」と聞かれることが多く、“自分で組み合わせたもの=セット“ じゃないのかなぁと不思議に(今でも)思っていたのですが、メニューを選ぶという時間そのものが面倒だったのだなと途中で腑に落ちました。

どう工夫したらうまく伝わるのだろうと長いこと悩んだりもしたものですが、そもそもが “求められていない“ ことに対して、“伝えよう“ とするのはこちらのエゴでもあるなと考え直して以来、メニューはセット表記にして、選ぶのが面倒な方は「珈琲」「紅茶」というご注文でも可能な時短システムに変えました。

ただこのやり方は全然楽しくないしやりたいことではないので、楽しみたい方はお好きなように選べるように、どのような組み合わせにもできるようにしています。本来はそれが普通のことだと思っています。

撮影だけが目的の方は、ご入店後メニューを一度も見ることなく誰かの写真を見せて「これと同じように出してください」というようなことも多くあり(今でもありますが)、なるほどメニューの内容など、どうでもいい人もいるのだなぁ、と知ったことも貴重な学びとなりました。これも一つの時短なのだと思います。

もしもそのような状況が大半を占めるお店だったら何の未練もなく辞められるのですが、本当にありがたいことに開店当初から時短を求めずゆっくり楽しんでくださる方が多かったので、なんとかお店を続ける道にいつも引き戻してもらっていました。

このお茶菓子に何が合うだろうとか、今日はこの豆にしよう、次はこの茶葉に、と考えていただいたり、でもやっぱりこれが好き、といつも同じになってしまったり、そんな色々がご注文から感じられる時間が私はとても好きで、いつもとても嬉しいです。

時短でスキップしない時間は、愛のあるとても豊かな時間ですが、それを知っていることもとても幸せなことで、知らないよりは知っている人生で良かったなぁと思います。