どうぞどうぞ。

だいぶ昔、色んなパン屋さんの商品が集まるイベントがあり、なかなか行けない大好きなパン屋さんも含まれていたので、朝早くから行列に並んだことがありました。

開場と同時にお目当てのパン屋さんのコーナーにそれぞれ人が殺到し、みんなが奪い合うようにパンを抱え込んでいて、私がたどり着いた時には数少なくなっていたお目当てのパンたちも、次から次へと乱暴につかまれていきました。

こういう風に好きなものを買いたくない、こんな風に買うくらいなら、なかなか行けない、食べられない、と思いながら恋焦がれている方がいい、と手にしたパンを棚に戻して帰りました。


以前働いていた社屋の最上階に社員食堂がありました。お昼のチャイムと同時にフロアを出ても上階の部署の社員が当然有利で、私たちがエレベーターで到着する頃にはすでに行列。

特にすぐ出てくるカレーやうどんのコーナーはカオスで、列という概念が存在せず四方八方から注文が飛ぶので、便乗して割り込んでいくしかない修羅場。(人が少なくなるまで待つかぁ)と後ろでのんびりしていると、仲の良い先輩から「そんなんじゃいつまで経ってもカレー食べられないよ!!」と先にカレーを奪われていく。

秩序が必要とされない空気感が嫌いなので、ダチョウ倶楽部ばりに(どうぞ、どうぞ・・・)とやりたくなります。


とある有名な洋食屋さんに行った時。1階の専用エレベーターに私たちが乗り込んだところ、後から数組のお客さんも乗り込んできました。

お店のある階に着き、他の方が降りてから最後に私たちも降りて長い行列の最後尾に並ぼうとしたら、お店の方が来られ「エレベーターに最初に乗られたのはどなたですか?」と声をかけられました。

なんだろうかと思いつつ申し出ると「では、この組の先頭に並んでくださいね」と理由を言わず順番を入れ替えてくれました。エレベーターを降りる時に順番が変わってしまうことのクレームやトラブルがもしかしたらあったのかもしれないけれど、お店の方の自然な思いやりのように感じられたせいか、先に降りて並んでいた方々も「どうぞどうぞ」と理由を察し、その後もエレベーターが着くたびに同じ温かいやりとりが続いていました。


スーパーで牛乳を手にレジに並んでいたら、私の前にずっと並んでいたおばあちゃんがふと振り返り、「あなた買うのそれだけ?じゃあお先にどうぞ」と順番を譲ってくれそうになったので、「いえ順番通りで大丈夫です」「いいのいいのお先に」という譲り合いになったことがありました。

譲り合う「どうぞどうぞ」は、永遠に続いてしまいそうになるので、時々困ります。


お店をやっているとよく見かけられる、お会計の時に「ここは私が払うから!」「ダメダメ私が!」という“譲らない“やり取り。

ある時、そんなやりとりが終わらず、強引に自分のターンで終わらせようとしたお客様が、おもむろに「今回は私が払うから、今度奢って!その時はもっといいもの奢ってもらうから!」と言った瞬間、私の存在にも気が付いて、(ユーモアのつもりが、ちょっと失礼なことを言ってしまった気がする)という気まずい空気がサッと流れ、「ほ、ほら、うなぎとか!」と一生懸命フォローする姿に、(何だかすいません、大したものじゃなくて‥)とあやうく私が謝りたくなりました。

丸く収まってよかったです。